ネオアンチゲン・ワクチンの抗原性を予測するアルゴリズムの開発
ネオアンチゲン・ワクチンの成否を分けるのは、患者ごとに全く異なる腫瘍の遺伝子変異由来の抗原(ネオアンチゲン)を正確に予測することです。当社と国立がん研究センター先端医療開発センターが共同で研究を推進する完全個別化がん免疫療法の臨床応用において、その力をいかんなく発揮するのは、ネオアンチゲン・ワクチンの抗原性を精度高く予測するアルゴリズム(手順・計算手法)です。
情報技術の革新により、機械学習、AI(artificial intelligence:人工知能)、ビックデータ等の実装が進展、あらゆる分野で予測の精度が上がり、業務の効率化、生産性の向上、社会的効用が増大しております。その進歩は、がんワクチンの分野でも、患者ひとりひとりで千差万別のネオアンチゲンのスクリーニングを患者個別に実施することを可能にしましたが、ハードルとなっていたのは、がん患者の体内で予測したネオアンチゲンに対して実際に免疫反応するか否か、予測が正しいかどうか、実際にヒトに投与して確認し、それを学習データとするわけにはいかない――。ということでした。
ネオアンチゲン・ワクチンは個別化医療の極致で、患者ひとりに対して、その方専用のワクチンを特注でつくらなければいけません。従来のがんワクチンならば、ヒトの血液中のT細胞が実際にワクチンに対して免疫反応するかどうか前臨床の段階で確証を持ったうえで臨床試験に進みます。ネオアンチゲン・ワクチンの場合は、検証を待っているとその間にがんが増悪してしまうので、この患者にはおそらくこのネオアンチゲンが反応するだろうと予測し、即座に(つまり検証を待たないで)打っていく必要があります。
「正答率」が高い予測アルゴリズムを用いたいけれども、予測が正しかったか、間違っていたのか、「正答率」は投与しなければ確認できない、という「鶏が先か、卵が先か」の因果性のジレンマに陥ります。
当社と国立がん研究センターの研究グループは、このジレンマをヒトHLA遺伝子を導入したマウス(HLA Tgマウス)で検証することで乗り越えようと試みました。具体的にはまず、過去のHLA Tgマウス試験で免疫反応の有無がわかっていたペプチド投与データを使ってニューラル・ネットワーク・モデルによる学習を行い、免疫原性予測モデルのプロトタイプを構築しました。次に新規のがん患者データを当社のネオアンチゲン解析パイプラインで解析し、ネオアンチゲン・ペプチド51本を選択しました。これらの選択ペプチドをHLA Tgマウスに投与したところ、34本(66.7%)が免疫応答を示しました。特筆すべきは、免疫原性スコアの高い上位16本中15本(93.7%)が免疫応答を示しており、当社の旧バージョンに比べ、効率良くネオアンチゲンペプチドを選択できることが示唆されました。現在はこれらの評価済みペプチドも学習データに加えて免疫原性予測モデルの再学習を行うなどして、さらなる精度の向上を目指しております。当社はこれらの成果を今回のAACR 2022で発表いたしました。